2024年11月10日日曜日

Intel Ultra 5 245Kとi5 13600Kの比較レビューまとめ

2024年10月に発売されたIntelの15世代CPU Arrow Lake Core Ultra 5 245Kを,13世代 Rptor Lake i5 13600Kと比較した(2024年11月時点)


1. Ultra 5 245Kとi5 13600Kの仕様

 まずマザーボード側の仕様だが,Arrow LakeではCPUソケット新しくなり,LGA1851となった。Rptor LakeのLGA1700とは互換性がないのでマザーボードの買い替えが必要となる。チップセットも新しくなりZ890(Rptor LakeはZ690 or Z790)となった。

 次に,それぞれのCPUの仕様を比較する。

 

 両方とも5系ということで,Pコア6とEコア8の構成は変わりない。しかし,245Kの方はハイパースレッディング(HT)が廃止されており,総スレッド数は14に減少している。HTは待ち状態になっているコアに別の処理をねじ込むことでコアの利用効率を挙げるものだが,昨今ではスケジューラの性能が向上して空き時間が無くなり,その効果が薄くなっているらしい。

 動作周波数は,PコアEコアともに245Kの方が高い。特にEコアの増大が著しく,基本周波数では36%,ターボで18%も高い。なお,同時使用コア数ごとの最大動作倍率は以下のようになっており,Pコアをすべて使用したときの周波数は245Kの方が0.1GHz低い。


 PBPは245K,13600Kともに125Wで変わりない。MTPは13600Kが181Wなのに対し,245Kは22W低い159Wとなった。12世代の12600Kが150Wなので,元に戻ったともいえる。なお,マザーボードのBIOSからIntel Default Setting適用時の長時間電力制限(PL1)と短時間電力制限(PL2)は,245Kと13600KともにMTPと同じ値となっていた。


 CPUの製造は,245Kは残念ながら内製ではなく台湾TSMCに委託されており,プロセスとしてはTSMC N3B(3nm)が使用されている(13600Kは10nmのIntel 7)

 また,245KのCPUダイは従来のモノシリックからチップレット構造に変更された。Foverosという3Dパッケージ技術が採用されており,CPUコアを含むコンピュートタイル,GPUタイル,メモリコントローラやNPUを含むI/Oタイルに分割され,それらがベースタイルを介して接続さている。AMDのRyzenもマルチレット構造ではあるが,Core Ultraの方はタイル間の隙間がなくモノシリックダイのようにも見える。

※ Intel,AMDのホームページより

 最後に,今世代ではデスクトップ版としては初めてAI処理をになうNPU(Neural network Processing Unit)が搭載された。ただ,その性能は13TOPSとMicrosoftが提唱するCopilot+PCの要件40TOPSに及ばず,現状用途が限定的(デスクトップPCでもNPUを用いたソフトウェアの開発環境を整えられる?)


2. IHSの反り

 12世代ではCPUをソケットに固定したときIHSが反ってしまい,CPUクーラーの冷却性能低下やメモリ動作の不安定化が起こることがあった。このため,保証切れ上等でCPU固定金具(ILM)とマザーボードの間にワッシャを挟んで固定圧を減らしたり,そもそも固定金具を別のものに変えることが流行った。

 245Kはどうか調べるため,CPUをソケットに取り付けた後,平らなガラス板とIHSの間の隙間を隙間ゲージで測定した。

 使用したマザーボードは以下。比較のため12世代CPU用のマザーボードも用意した。

・ASUS PRIME Z890-P WIFI-CSM(245K)

・ASUS TUF GAMING Z690-PLUS D4(12600K)

 なお,PRIME Z890-P WIFI-CSMの方は,固定圧を減らすため,下の写真のようにILMとマザーの間に白いプラスチック板が挟まっている。


 結果は,2600Kは0.06mmでIHSとガラス板の隙間に少し食い込み,0.05mmで完全に入った。対して245Kは0.01mmのゲージでも隙間に入ることはなかった。今回の環境では,反りはかなり改善しているといえる。



3. 処理性能の比較

 以下の環境で,245Kと13600Kの処理性能を比較した。

・Ultra5 245K
 BIOS:0803
 メモリ:DDR5 4800MHz(Crucial CT2K16G48C40U5 )
 OS:Win11 24H2,ビルド26100.2161
 OS電源プラン:ハイパフォーマンス

・i5 13600K:
 マザー:ASUS PRIME Z790-CSM
 BIOS:1802
 メモリ:DDR5 4800MHz(CFD W5U4800CM-16GS)
 OS:Win11 23H2,ビルド22631.4391
 OS電源プラン:ハイパフォーマンス

 13・14世代で発生したCPU劣化問題を受け,CPUへの電力供給周りのプロファイルとして,BIOSにIntel Default Settingが追加されたが,今世代もそのプロファイルは存在している。Intelはこのプロファイルの適用を推奨しているため,今回の検証ではこのプロファイルを適用した状態で行う。

1)Cinebench R23

 ASUSのマザーボードにはIntel Default SettingのほかにAdvanced OC Profileというプロファイルが用意されている。この検証ではこれらのプロファイル適用時のスコアも計測した。Advanced OC ProfileのLets BIOS OptimizeはBIOSの最適設定に準ずる(よくわからない)プロファイル,Remove All Limitsはすべての制限を取り払ったプロファイルとなる。

 結果は以下となった。245Kはマルチシングル共に13600Kより1割ほどスコアが高い。また,プロファイルによる差異は245Kの方が小さい。


 R23マルチ実行中の消費電力はIntel Default Setting適用時の値が改善して13600Kから約2割下がった。ただ,Advanced OCProfileのLets BIOS Optimizeは13600Kの方が低電力となった。


2)ワットパフォーマンス

 CinebenchR23をPL1,PL2を変えながら測定し,スコアと電力の関係をグラフ化した。プロファイルはIntel Default Settingを使用している.

 今環境では13600Kの最高スコアを245Kでは2/3の電力で出せる(グラフ読み)が,Intelの資料にあるような”半分の電力で”とまではいかなかった。

※ Intelの発表資料より

3)CAEの実行時間(FreeCAD+CalculiX)

 FreeCADはオープンソースの3DCADソフトで,有限要素法による構造解析,伝熱解析を実行できる。今回は片持梁の構造解析をCalculiXソルバにより行い,その解析時間を測定した。


 
 結果は,245Kが55.2秒,13600Kが65.6秒となり,20スレッドの13600Kよりも14スレッドの245Kの方が18%速くなった。なお,なぜかパッケージ電力がCinebenchR23の139W(245K)や169W(13600K)よりも高く,MTPの159Wや181Wまで上昇した。



4)7-Zipベンチマーク

 7-Zipはオープンソースの圧縮展開ソフトで,圧縮展開速度を測定するベンチマーク機能がある。

 ベンチマーク結果は,圧縮解凍ともに前世代の13600Kの方がスコアが高くなった。特に圧縮は14%高く,Cinebenchとは逆の結果となった。


4. まとめ

 このように,245Kは旧世代の13600Kよりもおおむね性能が高くなっているし省電力だが,一部の性能(今回は展開圧縮)は逆に低下していることが分かった。ただ,OSの最適化が進めば改善する可能性もあるので,ときどきベンチマークを取り直していきたい。

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